通訳案内士

通訳案内士の仕事で上高地へ 晩秋の北アルプスに米国人のお客様も大感激

「是非一度来てみたかった。」米国人のお客様の期待に違わず、初冬の上高地はその壮大な景観を惜しげもなく披露してくれるのです。

ー写真、梓川から穂高連峰を望む。私が撮りました。ー

今回は通訳案内士として行った2020年11月初旬の上高地ガイドの話です。

コロナ禍もあっての久しぶりの通訳ガイドの依頼です。

場所は上高地。ミーティングポイントは上高地バスターミナル。現地集合です。

事前に電話で「上高地は寒いので防寒対策万全に、できればトレッキングシューズで。ツアーコースを全部回るには10キロ以上歩くことになりますが大丈夫ですか?」と確認。

「大丈夫。私にとってはイージー。楽しみにしてるわ。」とのことで一安心。

お客様は日本在住のシカゴ出身アメリカ人女性お一人様。

10日ほど前に上高地に来たお友達に「素晴らしい絶景」と写真を見せてもらい、すぐにこのツアーを申し込んだとのこと。

お客様は前日松本泊で新島々駅からバスで上高地入り。私は反対側の平湯方面からバスで上高地入りです。

午後1時の現地集合で、帰りはお互い5時半のバスに間に合わなければいけません。

待ち合わせ時刻、外国人はほとんどいないのですぐにお客様を発見。

通訳案内士証を呈示して自己紹介。コロナの事もあるので肘タッチで挨拶です。

ツアーは10キロ以上の歩きとなりますのであまりゆっくりもしていられません。

全コース徒歩だと帰りのバスに間に合わないのは明白。

すぐに帰りのバスチケットを購入していただいて、事情を説明して、大正池までタクシーで。

ここからツアースタートです。

前日の雨も上がり、晴天に恵まれた絶好の上高地日和。初雪を頂くお馴染みの穂高連峰は息をのむような美しさです。

しかし標高1500メートルですから、天気が良くても寒い。風も冷たい。

まずは大正池と焼岳の事をざっと説明。焼岳が活火山active volcano)であることと大正池が最近できたものであることを説明。

すると即座に山の高さと大正池ができた年の質問が返ってきました。

2,455m above sea levelとin 1915と即答します。この辺でガイドの力量を確認しているのかもしれません。

このお客様は上高地の説明よりも美しい川、森、山の景色を楽しんでいる様子。

美しいpicturesque spots,sceneryを教えてあげることを優先にします。

今日の場合、長々とした説明は決してお客様が期待していることではありません。

説明は手短に済ませます。それよりも質問に丁寧にお答えしましょう。

その後、田代池から田代橋、穂高橋を通ってウエストン碑、そして河童橋へ。

この辺はどの景色を切り取っても絵葉書のように美しい。

お客様、夢中でシャッターを切ります。

この日、ウエストン碑の周辺には猿の一族郎党の群れが、人を全く恐れず近づいてきます。母猿の背には何頭もの赤ちゃん猿がしがみついています。

これにはお客様大喜び。写真撮りまくりです。

ちなみニホンザルをあまりmonkeyとは呼びません。Japanese macaqueです。

“macaques!” “macaques!”(マカークス!)よほど猿がお気に入りの様子です。

途中、休憩とおやつタイムを挟みながら職場の話や家族の話、これまで経験してきた世界中の旅の話を聴かせてもらいます。話題に事欠かないお客様です。

しかもほとんどガイドの私と二人だけですから他の人に遠慮する必要もありません。

ここがグループや団体と違うところです。ガイド貸し切りですから何でも話します。

ほとんど、森の中をずっと二人で歩いていく訳ですから。

大統領選の話や宗教の話、普通は避けた方がいい話題も遠慮なく話してきます。

こちらは聞き役に徹します。uh-huhとか「うん、うん」と合いの手を入れながら、所々でちょっと難しめの単語を入れながら質問したりします。

すると「そんな話も聞いてもらえるの?」と思うのか、どんどん話が広がっていきます。

子供の頃や親戚のことにも話が及びます。

そうです。コミュニケーションで最も大事なのはまず、相手の話を傾聴することなのです。

誰でもそうですが、人の話を聞くより自分の話を聴いてもらいたいのです。

河童橋を過ぎ、左の梓川右岸コースをとってしばらく行くとやがて眼前に雪を頂いた壮大な奥穂高、前穂高、涸沢カールの絶景が広がります。

これぞ「The Kamikochi」です。

この景色を見てもらったらもう「どう?来てよかったでしょ。」といった感じです。

Marvelous!  Splendid! 連発です。

ここで奥穂高のことをちょっと説明します。

アルピニストに最も人気の山であること、また危険な山であること、そして日本で三番目に高い山 the third highest mountain in Japan.であることを紹介します。

ここで定番の質問がきます。

「じゃあ、二番目の山は?」

通訳案内士志望の方は必須知識ですよ。わかりますか?

「南アルプスの北岳です。3193メートル。奥穂高は3190メートル。3メートルだけ低いんです。」

あとはこのツアー最後の景勝ポイント明神池と穂高神社奥宮です。

3キロほどの林間と熊笹のアップダウンのコース。

時刻は3時を回っていますから、他のハイカーともほとんどすれ違いません。

ここ数日、熊の目撃情報が毎日出ていますので周囲に目を配りながら進みます。

妻が心配していたので鈴を腰に下げて鳴らしながら歩きます。

「それ何?」

「bear repellant bell(これでいいのか?) 熊除けベル」

「熊に会うの楽しみだわ。私はグリズリーにもあったし、フロリダでワニにもあったのよ。」

全くひるむことがありません。なんとも逞しいお客様です。

やがて、雲が出てきて風も強くなり、少し暗くなってようやく明神池(写真)到着です。

神秘的な景色が広がる魅力的な撮影ポイントです。

私は穂高神社奥宮にお参りしましたが、

「一緒にお参りしますか?」と訊くと

「私はキリスト教の神を信じているからしない。」という返事。

私一人で参拝。その様子をお客様は後ろで見ています。

少し神道の話をしました。

「大学でヒンドゥー教やブードゥー教のことは習ってある程度理解できたけれど日本の神道だけは理解できなかった。日本の神社は好きだけど」と彼女。

「それは分かります。だって教義も聖典も創始者もいない宗教だから。」と私。

「神道でもっとも大事なのはpurityとcleanliness。最大のimpurity(穢れ)がdeathですよ。」

通訳案内士の必須知識である神道の祓いと禊の話までせず、少し帰路を急ぎます。

帰りのバスの時間は大丈夫ですが、少し暗くなり、風も強くなってきました。

明神橋を渡って今度は梓川左岸コースをとって河童橋、バスターミナルに向かいます。

帰りは下りの広い平坦路。ずっと二人で大きな声でおしゃべりです。

熊除けになったかも。

バスターミナルに着いた頃は周囲も真っ暗、風も強く雪もちらついてきました。

おー寒い。寒い。でもお客様は全然平気。疲れた様子もありません。

これで熊にも遭遇せず無事ツアー終了。お客様も笑顔で大満足。

とてもラッキーでナイスな一日だったとのこと。「友達みんなに写真を見せて上高地を紹介するわ。」

私はツアー参加の謝意を述べた後、手を振ってバスをお見送り。

ツアー無事終了です。

私もバスに乗って帰路につきました。

 

今回は以上です。
ご精読いただきありがとうございました。

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