その他雑記

鬼軍曹? K1曹の思い出。 人の噂はあまりあてにならない?


今回は私の自衛隊時代、同じ中隊で「鬼軍曹」と恐れられたK1曹についての話です。


連隊でも有名な鬼軍曹

同じ中隊に配属になった同期のAがある日私に「おい、K1曹の噂、聞いたか?すごい怖いらしいぞ、気を付けた方がいいぞ。」と忠告してくれました。

新隊員の私にとっては同じ中隊の先輩が皆「怖い人」だったので特にK1曹のことは意識していませんでした。確かに、よく鍛えられた古武士の風格があり、常に笑みをたたえながらも眼光には鋭いものを感じていましたが、ちょっとハンサムで健康的。特に「怖い人」とイメージはありませんでした。

K1曹は九州出身。Kは九州に多い苗字。連隊に同じ苗字の人が何人もいて、私にとって以後この苗字の人は「九州の人」という印象です。

「時々豹変するらしい。」
「ぼさっとして回し蹴りを食らった隊員が何人もいるらしい。」
「レンジャーの鬼教官で有名、連隊の中でK1曹の事を知らない者はいないらしい。」

「あまりにも指導が厳しくて、レンジャーの訓練中に疲れて歩けなくなった際、『お願いですから、もう勘弁してください。』と泣いて懇願したレンジャー生徒がいた。」

「演習中に攻撃目標の○○高地を具体的に地図上で示せなかった小隊長の幹部自衛官を装甲車から引きずり降ろして、『貴様、そんな適当な命令受領があるか!そんなことで隊員がお前に命を預けられるか!』と上官を演習場でを吊るし上げた。」

そんな「伝説」に事欠きません。

中隊で少し先輩の長崎県出身のS士長は、「俺もK1曹に回し蹴り食らいそうになったことがあったな。でも俺、極真空手やっとったからとっさにこうやって防御した。」と腕をクロスに組んで見せていかに巧みににその制裁から逃れたか自慢していた。

ヘビを連れて散歩?

そんなK1曹ですが、ある時のレンジャー教育に教官として参加していた時の逸話。
レンジャー教育は陸上自衛隊の中で最も過酷な訓練として知られていますが、その時サバイバル訓練の一つとして、生きたヘビ(シマヘビ)をさばいて食すというのが定番で行われています。このヘビ、訓練中の山中で見つけて捕獲するということは偶然でもない限り不可能なので、実際には業者から何匹か購入して訓練に「帯同」させることになります。

ある時、その長い帯同生活で「ヘビ君たち」が少し元気がないのを見たK1曹が、
「お前たちものう、長い間箱に入れられて退屈しとるじゃろ? 俺が散歩に連れってやるでのう。元気だせや。」とヘビの「首?」に紐をくくりつけて楽しそうにヘビを散歩させていたということです。

これは私が冬期戦技訓練隊のスキー合宿で一緒だったある3曹(その時のレンジャー生徒)から聞いた話。

私にとっては「とても良い上官」

そんな噂のK1曹でしたが、ある時、私が消灯後に中隊の事務所の机を借りて他の2、3人の隊員と自習(消灯後に事務所だけは点灯して資格試験などのため自学自習する隊員のために解放されていました。)していると当直腕章をつけたK1曹が入ってきて、その場に一瞬緊張感が走りました。

その時「J.B ハリスの百万人の英語」をイヤホンで聴いていた私の前にK1曹が近づき、「おう、○○、勉強しとるのか?頑張っとるな。」と声をかけ、事務所内の隊員にも
「皆、頑張っとるな。風邪ひかんようにな。」とねぎらいの言葉。

「なんだ、めっちゃいい人やん。」と思った私。

国税専門官を目指していたK士長は、「K1曹はこっちがちゃんとしてれば別に怖くない人だよ。」とのこと。K士長はこの後、見事試験に受かり国税専門官になりました。

その後も銃剣道やスキーでそれなりの好成績を残していた私にK1曹はよく声を掛けけてくれました。私を見つけると「おう、○○!調子はどうだ?元気にやっとるか?」「スキー頑張っとるらしいな?」

私は「ハイ!何とか必死に頑張っています!」

周囲から「お前に対してなんか少し態度が違うんだよな。K1曹」との声。

気分は「ランボー」

そんなK1曹とある時、戦車連隊との演習で敵方の遊撃隊として分隊が一緒になったことがありました。アンブッシュ(待ち伏せ攻撃)をしようと道路端で潜んでいるとK1曹が私に

「○○!これでどうだ?」
見るとK1曹、頭にバンダナを巻き、迷彩Tシャツを肩までたくし上げて自動小銃をかかげて「ランボーじゃ。!」とニッコリ。自慢げです。

気分はすっかりシルベスター・スタローンです。

「俺一人で行く!お前らはここで待っとけい!」

向こうから敵方の戦車連隊の連隊長をのせた巡察車のジープがやってきます。K1曹は潜んでいた茂みから飛び出しジープの前に立ちはだかり、「よっしゃー!!」と叫んで「バンバンバン!」と空砲を連射。

「凄い、敵連隊長戦死だ。」と私たち。

すると停車した連隊長者の後ろのジープから審判官が降りてきて。
「ご苦労様。申し訳ないけど連隊長戦死だと状況が進まないので、今のは無し。」

道路わきに呆然と立ちつくすK1曹の横を何事もなかったかのように敵連隊長を乗せた車列は通り過ぎていきました。

「俺に銃よこせい!」

また、連隊で行われた中隊対抗武装走の競技会の時のことです。
「武装走」とは陸上自衛隊のマラソン大会のようなものですが、普通のマラソン大会と違うのは服装は戦闘服。足には革の半長靴を履き、頭にはヘルメット、自動小銃を負い紐でたすき掛けで背負っての三人一組のチーム走だという点です。

三人一緒にスタートして三人一緒にゴールしなければなりません。チームのメンバーが協力してゴールすることが目標ですから、装備を肩代わりすることもOKです。普通科では結構盛り上がる大きな戦技競技会で各中隊、力が入っています。

私の組はK1曹と極真空手のS士長、そして私。リーダーがK1曹ですから、手を抜いたり、気を抜いたりすることは当然できません。コースは駐屯地の外周の一部を使った6キロのコース。

連隊前からスタート。ゴールも連隊前です。ペース配分はもちろんのこと、メンバーの体力差も考慮してのクレバーなレース運びが大切です。

各組、時間差を設けての一斉スタート。本部管理中隊、重迫撃砲中隊を含めた第1中隊から第6中隊の8チームが同時にスタートします。

号砲を合図にスタートです。我々のチームは先頭集団でいい位置をキープしています。スタート後1キロほどで駐屯地に隣接する滑走路に出ます。ここからまた1キロほどは滑走路上の平坦コースです。我々は快調に先頭集団についていきます。右手に折れて駐屯地の外周コースに入ります。

外周コースを快調に走ってしばらくすると、どうもS士長の様子がおかしい。
バテ始めている様子。表情が苦しい。

「S!大丈夫か!」K1曹の声が飛ぶ。
「大丈夫です。」と苦しそうなS士長。

さらに数百メートル行くとS士長のペースが落ちてきた。
「まずい、ペースが落ちる前にS士長の負荷を軽くしてあげるべきだった。」と私が思うと同時にK1曹が私に「○○!Sの銃を持ってやれ!」という指示。S士長は走りながら肩から銃を外して私に手渡す。

「すまん!○○」とS士長。私はまだ余力があったので、「オーケー、頑張れ!」とS士長を励ます。しかしこの武装走、一旦バテると銃を誰かに預けて負担を軽くしてももなかなか走力が回復しない。

私は小銃二丁を背負ってズシリと負担が重くなったが(二丁で9キロほどの重さ。)何とか持ちこたえている。
「このまま何とかゴールまで走れそうだ。」

しかし、S士長の走力が回復してこない。スピードも上がってこない。レースも終盤に差し掛かって駐屯地の給水塔を右手に見ての急な上り坂を登り切ればゴールまであとわずかだ。S士長も何とか必死に持ちこたえている。
上り坂に差しかかる。大きく腕を振って勢いをつける。二丁の小銃の負い紐が肩に食い込んでくる。

苦しい。
でも何とか登り切った。

先頭集団からは離されたが、あとはゴールまで1キロほどだ。S士長も苦しそうだが大丈夫な様子。
私もこのままゴール出来そうだ。


ゴールの手前数百メート程になると今まで全くいなかった各中隊のギャラリーが応援している。

応援されると苦しい中でもちょっと気分がいい。ここで私も少しスケベ心が起き、
「小銃二丁背負ってゴールする俺、カッコいいかも?」

そう思って気持ちよく走っていると、ゴール手前200メートルほどでK1曹が突然、私に

「おい!○○(私のこと)! Sの小銃、俺によこせい!」

K1曹、私の肩からS士長の小銃を奪い取る。

こうしてK1曹が沢山のギャラリーの声援を受けながら、二丁の小銃を背負ってヘロヘロの私とバテバテのS士長を伴って部隊の声援を受けてゴールしたのです。

私とS士長がゴール後ぶっ倒れたのは言うまでもありません。

実は愛妻家?

ある平日の事、訓練の代休で非番だった私は髪を切ってもらいに駐屯地内の理髪店へ。
しかもなぜかその日は部隊近くのいつも理髪店ではなく、師団グラウンドを挟んで少し離れてた○○特科連隊の近くの理髪店へ初めて足を運んだのでした。

髪を切ってもらったのは綺麗な顔立ちでとても優しい話し方をする素敵な女性の理容師さんでした。
普段むさ苦しい男の集団の中で過ごしているので女性の優しい声はとても心地いい。

「○○特科連隊の隊員さんですか?」
「いえ、○○連隊です。ちょっと気分転換にこちらまで足を延ばしました。」と私。
「あら、うちの人も○○連隊なんですよ。」
「あ、そうなんですか。」
知っている人の奥さんであれば会話も少し盛り上がるのだが、少し疲れていた私はそれが誰なのかあえて尋ねない。

「私のところにいつも髪を切りに来てくれるお客さんで、それで結婚したんですよ。」

「へえ、そうなんですか。旦那さん髪切ってもらって見染めたんですね。」私は微笑ましい話と聞き流していました。


ところが、しばらくすると、私の背後で来客の気配。
ドアのカウベルがカランカランと鳴り、誰かが入って来た。

「ゴメン、遅れちゃって。」
馴れ馴れしい口調で女性理容師さんに話しかけている。


「あなた、○○もってきてくれた?」


え!旦那?


「うん!ちゃんと持ってきたよ。」と旦那。

え?この声聞き覚えがある。もしや!?。

私は気付かれないよう伏し目がちに鏡越しに後ろをチラッと見た。

K1曹?。いや確かにK1曹だ!。

しかし、声のトーンが「鬼軍曹」の時と全く違う。
1オクターブ高い。嬉しそう。

奥さんに何かお使いを頼まれていたらしい。

「ありがとうね。」とK1曹夫人。


「うん。今仕事中だからすぐ帰らないと。じゃあね。」
普段の部隊での声とはうって変わった別人の猫なで声だ。


○○連隊からかなり離れたここによもや同じ部隊の知ってる人間がいると思っていない。全く油断している。


私が居ると分かったらばつが悪い。
私ではなくK1曹の方が数段ばつが悪い。

私がいることを気づかれないように私は少し顔を伏せた。

大丈夫だ。
K1曹は私に気付かなかった。よかった。

その人の事をよくわかっているようで、実はほんの一面しか知らかなったということです。

優しい愛妻家のK1曹。

次の日、隊内ですれ違った時、何も知らないK1曹は相変わらずドスの効いた低い声で私に声をかけてくれました。

「おう!○○!どうだ頑張っとるか!」

何も知らないいつもの「鬼軍曹」でした。

今回は以上です。
ご精読いただきありがとうございました。

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