英語の勉強をもう一度やり直して今度こそ何とかマスターしたい。話せるようになりたい。そんな思いの方沢山いらっしゃると思います。今回は、私が50歳を過ぎて英語の勉強に再挑戦したそのいきさつについてお話します。
私はそれまで特別、英語に興味があったとか、英語を流暢に話したい、あるいは外国の方とお友達になりたい、また留学したいとか、取引先とのやり取りで英語力が必要だとか、はたまた会社での仕事上、一定のTOEICスコアを要求されるといった理由は全くありませんでした。
つまり別に英語などできなくても何の問題もない、ある意味で今時にしては「恵まれた環境」で生活していたわけです。
もちろん何らかの英語の資格を取得したらインセンティブで手当てが付くといった魅力的な話もありませんでした。
つまり英語が出来なくても日常生活でも、あるいは仕事上でも何の支障もなかったわけです。
実は、務めていた会社がISOの品質マネジメントシステムの導入を決めたことが英語をやり直したきっかけです。
ご存知の方も多いと思いますが国際規格のマネジメントシステム「ISO9000シリーズ」です。
社長から品質保証室長の役職を拝命して「品質マニュアルを作成してこれを構築するように!」との命令をいただきました。
品質保証室長といってもメンバーは私一人だけです。
月に一度コンサルタントの先生の指導を受けながら四苦八苦の上、なんとかシステムを作り上げ、無事に認証取得しました。
このISO9000シリーズ、当然、国際規格ですから、その要求事項(Requirements)の原文は英語で書かれています。
使われる用語の意味はオックスフォードの英英辞書に準拠しているとのことです。
この規格はJIS(日本工業規格)から日本語訳が発行されていますので英語の原文が読めなくても大丈夫です。
しかしこのような規格は英語の原文で読んだほうが理解しやすいのです。
コンサルタントの先生や認証審査機関の審査員の方から「要求事項のこの箇所は原文ではどの様に書かれていますか?」このようなことをよく質問されます。(特に実際に「品質マニュアル」を作成している品質保証室の人に対して)
審査機関の外部監査を受審した経験されている方はご存知かもしれませんが、初めの頃、よく次の様なやりとりがありました。
審査員:「要求事項を満たしていない製品が製造ラインから出来上がってきた時はどのように対処しますか?」
私:「前工程に差し戻して手直しします。ただ納期的に間に合わない場合や手直しに多額のコストがかかる場合は顧客の了承を得た上で特別採用の手続きを行います。」
この「特別採用」という言葉、製造業に携わっている方にはお馴染みの言葉で、ストレートに言えば「失敗作」(不良品)に対する救済策です。
かしこまったこの「特別採用」という用語、原文では “Concession” です。これを英和辞典で引いてみても「特別採用」という訳はまず出てきません。「譲歩、容認」です。しかしこの「譲歩」の意味合いの方が製造現場での “Concession” を理解する上ではしっくりきます。
「しょうがないな。納期も間に合わないし、作り直したらコストもかかるし、今回は特別に認めてやる。」ということです。
また、こんなやりとりも、
審査員:「保管期間が過ぎた文書や記録はどうしていますか?」
私:「廃棄処分します。」
審査員:「えっ、廃棄するんですか? えーと原文にはなんて書いてありますか?」
この「処分」という言葉、英語の原文では “dispose” です。
もちろん「処分する」とか「捨てる、廃棄する」という意味もありますが「配置する、配列する」の意味もあります。つまりもう一度仕分けして、廃棄してよいものは捨てる。必ず廃棄処分しろということではないのです。
英語の原文を理解した方がイメージし易いのです。
審査員から、頻繁にこの原文の英語について訊かれるで、「なんかいつも少し上から目線だな、偉そうにしてるけど、この人たちの英語力はどれくらいなんだろう?」とすこし興味が湧きました。
調べてみると当時、私の会社を担当していた外資系の審査機関では審査員にTOEICスコア600以上の英語力を要求していました。
「いつも原文の英語のことを訊かれて少し癪だし、まあこの機会に俺も自己啓発ということでもう一度英語の勉強でもしてみようかな。」こんなことが私の英語やり直しのきっかけです。
「しかし、なんとなく勉強していてもモチベーションが続かないだろうし、これから自分も英検とかTOEIC受けてみようかな。」これが英語やり直しのスタートでした。
とりあえず自分の力にあった級の英検合格、TOEICスコア600、これを目標に頑張ってみよう。こんな感じのスタートです。この後、ISO9000の審査員補の資格も取得しましたし、審査員の英語力にも全然関心がなくなりました。(笑)
やるからには目標を大きく持って英検1級を目指してみよう!
これが私の英語再挑戦のスタートです。「英検1級」の合格、その次は最終的に唯一の語学系国家資格である「全国通訳案内士」の合格。この二つをベンチマークにして英語の勉強をすき間時間を利用しながらコツコツやって両方とも取得することが出来ました。
英語を勉強していてもその結果に対して目に見えるような何の見返りもご褒美もありません。別に英語など勉強しなくても仕事でも生活上でも支障はないのです。
特に英検1級は私のような独学者にとっては大きな壁でした。何度受験しても一次試験が突破できない状態が続きました。スコアが上がっていかないのです。それもいつも合格点に1点や2点の不足で。さすがに何度も心が折れそうになりました。
しかし語学は「継続こそが大事」と肝に銘じ、孤独な勉強を続けていたある時、当時教材として使っていたあるテキストに
『敗者のほとんどが成功の一歩手前まで来ているのに気づかずに諦める。』
という一文を見つけて、「俺はまさしく今この状況にいるのだ。諦めてはいけない。俺の努力にタイムリミットは無いのだから焦る必要などないのだ。」と50過ぎのおやじが「心を燃やして」奮起してチャレンジし続けたら、一次試験合格の褒美を頂いた次第です。
精神的に苦しくなったときはいつもあの一文を思い起こして英検二次試験、全国通訳案内士試験にチャレンジしてきました。
私が得た語学学習で一番大事なことは
『決して無理をしないこと』
『少しづつでもいいから学習を継続すること』
『決して諦めないこと』
この三つです。
今回は以上です。
ご精読いただきありがとうございました。