基本的に助動詞の過去形は過去を表していません。
こう考えた方がわかり易い。
助動詞の過去形、should, would, could, might は英文中で頻繁に見かけますが、これを「すべきだった」「だった」「出来た」「かもしれなかった」と訳すのは基本的に間違いです。
例外として過去の現実を表現した習慣の would、used to や可能性のcould not を除けば助動詞の過去形は過去を意味していません。
過去を表現するのであれば必ず「助動詞+have+過去分詞」の形になります。
今回はそんな助動詞の過去形についてです。
助動詞の種類には二つあります。
まずは
完了形をつくる have、受動態や進行形をつくる be動詞、疑問文や否定文をつくる do がこの種類の助動詞です。
時制や、受動態、進行形、疑問、否定といった文法上の形を作るための助動詞でこの助動詞自体に意味はありません。
ここで取り上げるのは
法助動詞 modal auxiliary verb
話し手の推量、確信の度合い、気持ち、思いの強さを表現する助動詞です。
仮定法の「法」とは決して「仮定の文を作る方法」のことではありません。
「法」とは英語で Mood と言います。動詞に話し手の気持、気分をつけ加えた時の述語動詞(5文型でいうところのV)の形のことです。
ですから、仮定法に関しての出題はこの「述語動詞」のカタチを尋ねていることがほとんどです。
一般的に「助動詞」とはこちらを指します。今回はこの「法助動詞」についての話になります。以下、これを助動詞と呼ぶことにします。
助動詞は一般動詞やbe動詞とセットで用いられますが、一緒に使われる動詞は原形になります。
しかし、この助動詞が使われている時点では実際にその動作は行われていないし、その状態にもなっていません。
あくまで話し手の推量、確信、思いを後ろに置かれた動詞に被せているのです。
以下にこの助動詞を並べてみましたが、ここでは助動詞の訳「~しなければならい」「ちがいない」「すべき」「かもしれない」「できる」などは書きません。
実は助動詞の意味をこういう日本語訳で固めて覚えると、助動詞の本質が掴みにくくなります。
その代わりに助動詞の持つ方向性とその気持の強さを「気持度」という表現で数字で表現してみました。
個人的な主観をベースにした大雑把なものですが、この数字で思いの強さを理解した方が助動詞の本質を掴めるはずです。
代表的な助動詞とそれが意味する気持(気分)と強さ(数字)
must 義務、確信。 気持度100
have to 義務、必要性。 気持度100
had better 警告。 気持度100
shall 命令、義務、予言。 気持度100
should 義務、確信。 気持度95
ought to 義務、確信。 気持度95
will 意志、確信。 気持度80
would 意志、過去の習慣。 気持度70
used to 過去の習慣、状態。 気持度70
can 可能性、潜在力。 気持度50
be able to 能力。 気持度50
could 可能性、潜在力。 気持度40
may 許可、確信、願望。 気持度50
might 許可、確信、願望。 気持度30
dare 度胸。 気持度90
need 必要性。 気持度95
※needは助動詞、一般動詞の両方で用いられますが、助動詞で用いられるのはほとんど場合、疑問文、否定文のみです。
話し手の気持を強さの順で並べると以下のようになります。実はこの感覚で助動詞を眺めることが非常に大事です。
強い
must
↓
shall
↓
should
↓
will
↓
would
↓
can, may
↓
could
↓
might
弱い
つまり助動詞の使い分けの上でいちばん大事なことは「~にちがいない」「できる」と言った「日本語訳」ではなく、この思いの強さで使い分けることが肝心なのです。
助動詞の過去形は過去の意味ではない。
助動詞の過去形は話し手の気持の腰が引けている、自信のない表現です。
目の前の現実から一歩後ずさりしている。距離をとっているということです。
例えば以下のような依頼表現
Can you do me a favor?
「お願いがあるんですが?」
Will you call me back later?
「後で折り返し電話してもらえませんか?」
これよりもcould, wouldを使った方が丁寧な表現になるのはこのためです。
Could you do me a favor?
Would you call me back later?
依頼者の気持が弱くなっている。
へりくだっているのです。
実現の可能性を下げているとも言えます。
このような表現で依頼を受けた方は断り易くなります。
仮に断るとしても、そのハードルが下がります。
だから丁寧な表現ということになるわけです。
仮定法に助動詞の過去形が出てくるのはこのためです。話し手の気持ちの中にある実現の可能性への思いを下げているわけです。
過去形は心理的な距離を表現する。
若者は年配者より同年代に親近感を抱くのは当然ですし、古い話題より最近の話題を好むのが自然でしょう。
そこにあるのは過去のもの、ことに対する距離感です。
一般的に学校で年配の教師より、同年代の新任教師が人気があるのはこのためです。
「ねえ、このアイドルの中で誰が好き?」ということが話題に上がることがあっても
「ねえ、赤穂浪士47士で誰が一番好き?」はないわけです。
言語表現の中にもこの過去形に対する心理的距離間が働いています。
推量の度合いが下がり、実現可能性への思いが下がり、確信の度合いが下がっているわけです。
can ⇒ could が「できる。」から ⇒「できるだろう。」になり、
may ⇒ might が「~かもしれない。」から ⇒「ひょっとしたら~かもしれない」になるわけです。
You can do it.
「キミならできる。」
You could do it.
〇「キミならできるかも。」
✖「キミならできただろう。」
最後に、
英文中に助動詞の過去形があったら次のように考えましょう。
①助動詞の過去形の前後に動詞の過去形がある。
↓
時制の一致で過去形になっていると考える。
(過去の意味はありません。)
He said that It would rain tomorrow.
「彼は明日雨だろうといった。」
次に
②文脈上、非現実の内容と判断したら。
↓
仮定法過去(意味は現在)と考える。
そして
③それ以外
↓
気持が一歩後退した謙虚な表現、丁寧な表現と考える。
過去形を現在形に置き換えて読むと分かりやすい。
(過去の意味は無い。)
結論:前述した一部の例外を除いて助動詞の過去形に過去の意味はありません。
話し手の考えている、推量、可能性、気持、思い、気分を一つ下げた表現だということです。
もうこれで助動詞の過去形が出てきても大丈夫ですね。
今回は以上です。
ご精読いただきありがとうございました。